「エナメルで色を入れたい」とご相談いただくとき、多くの方が想像しているのは、つやのある宝石のような表面です。ところが実際には、エナメルには複数の種類があり、選んだ種類によって表面の高さ、最小の色幅、色数、費用が変わります。写真では違いが分かりにくいため、発注後に「思っていた仕上がりと違う」という食い違いが起きやすい部分でもあります。デザインの準備はメダルデザインのページでもご案内していますが、ここでは入色の技術的な限界を数字で示します。

七宝とエナメルの関係

「七宝」は本来、金属の地にガラス質の釉薬を焼き付ける伝統工芸を指します。メダルの世界でエナメルと呼ばれているものは、この技法を工業的に再現した合成樹脂塗料で、正式にはイミテーションエナメルと呼びます。

したがって、メダルの入色は「七宝風」の仕上げであり、伝統工芸としての七宝とは素材が異なります。ただし、見た目の鮮やかさと耐久性は実用上十分で、スポーツメダルから式典の記念品まで幅広く使われています。

軟質・硬質・グラスの比較

項目軟質エナメル硬質エナメルグラスエナメル
表面の状態金属の縁よりわずかに低い金属と同じ高さで平滑ガラス質の光沢
手触り凹凸があり立体的つるつるして平らつるつるして硬い
最小入色幅0.3mm0.5mm0.5mm
相対コスト標準+20〜30%+15〜20%
生産日数標準+1〜2日(研磨工程)標準
適した用途大会メダル、学校行事、参加賞表彰式、企業記念品、式典水や自然をテーマにした表現

最小入色幅の違いが、デザインの自由度を大きく左右します。軟質は0.3mmまで色を入れられるため、細かい文字や小さな図形の内部まで色を分けられます。硬質は0.5mmが下限で、それより細い溝には塗料が入りきらず、研磨の際に削り落とされてしまいます。

軟質エナメルの作り方と限界

軟質エナメルは、めっきが終わったメダルの凹部に液状の塗料を流し込み、乾燥炉で硬化させます。硬化は2段階です。まず低温60〜70℃で半硬化させ、そのあと高温100℃で完全硬化させます。

塗料は硬化の過程でわずかに収縮するため、金属の縁より低い位置で固まります。この段差が軟質エナメルの手触りの正体です。

限界は3つあります。ひとつは細い溝には塗料が入らないこと。ふたつ目は、収縮のばらつきにより面が完全には平らにならないこと。3つ目は、色数が増えるほど塗り分けの工程が増え、細かい部分でにじみが出やすくなることです。実用上は1〜3色が最も安定します。

硬質エナメルの作り方と限界

硬質エナメルは、液状ではなくより粘度の高いペーストを使います。充填して焼き付けたあと、メダル全体を研磨機で削り、塗料と金属を同じ高さに揃えます。この研磨工程があるために、軟質より1〜2日多くかかり、費用も上がります。

研磨は加減が難しい工程です。削りが足りなければ表面に凸凹が残り、削りすぎればめっきを削って下地の色が出てしまいます。当社では研磨の前後で検品を行い、面の平滑さとめっきの残りを確認しています。

限界は、最小入色幅が0.5mmであること、そして1枚のメダルに軟質と硬質を混在させられないことです。工程が異なるため、1枚にはどちらか一方しか選べません。

エナメルは何色まで入れられる?

入色の設計で最も多いトラブルは、色数と文字サイズです。以下が実際の限界値です。

項目実用範囲限界を超えるとどうなるか
入色の色数1〜3色が標準4〜6色は加算、7色以上は工程が増える
軟質の最小入色幅0.3mm塗料が入らず、地の金属色が残る
硬質の最小入色幅0.5mm研磨で塗料が削り落とされる
文字の高さ1.5mm以上判読しにくく、塗料も入りにくい
レーザー彫刻の線幅0.1mm以上細すぎるとつぶれる
レリーフの線幅0.3mm以上合金が金型の隅まで回らない

文字を小さくしたい場合は、エナメルをあきらめてレーザー彫刻に切り替えるという判断が有効です。レーザー彫刻は線幅0.1mmまで対応でき、色は単色になりますが判読性は保てます。

特殊な入色

標準の軟質・硬質のほかに、表現の幅を広げる加工があります。

  • ラメ(グリッター):半硬化状態の軟質エナメルにラメ粉をまぶして封入します。光を受けて輝き、ナイトイベントや女性向けの大会で選ばれます。
  • 蓄光(夜光):エナメルの硬化後に蓄光粉を載せます。月や星、開催年など、部分的に使うと効果的です。
  • 透明エナメル:金属の地肌が透ける半透明の色で、深みのある表現になります。水や自然をテーマにしたデザインに向きます。

これらは部分的な使用が前提です。全面に使うと効果が薄れるだけでなく、コストも上がります。素材と加工の組み合わせはメダル素材のページでご案内しています。

色合わせの考え方

当社はPantone基準でエナメルを調色します。塗料室には基本の顔料を常備し、指定のPantone番号があればその通りに合わせます。番号がない場合は、ロゴや参考画像からこちらで近似色を選び、量産前に色見本で確認いただきます。

チームカラーのように正確さが求められる場合は、必ず色合わせのサンプルを作ります。画面上の色と、実際の塗料の色は一致しないためです。

よくある質問

軟質と硬質はどちらが丈夫ですか?

通常の使用では同等です。硬質は表面が平らで汚れがたまりにくいという利点がありますが、塗料と金属の接着の仕組みは同じです。日常的に使う分には、どちらも色あせや剥がれは起きにくい仕上げです。

1枚のメダルに軟質と硬質を混在できますか?

できません。工程が異なるため、1枚にはどちらか一方を選んでください。

色は何色まで入れられますか?

1〜3色が最も安定します。4〜6色は1色あたりわずかな加算で対応できますが、7色以上は入色工程が増えるため加算の仕方が変わります。

エナメルの上から彫刻できますか?

できます。ただし彫刻はエナメルではなく金属層まで削るため、エナメルのない平坦な部分に配置するのが基本です。

写真映えするのはどちらですか?

硬質は表面が平らで影が出にくく、均一に写ります。軟質も凹凸が立体感を生み、会場の照明によっては深みのある写真になります。どちらが良いかは撮影環境によります。

サンプルで両方を見比べられますか?

はい。同じデザインで軟質と硬質の両方を作り、比較いただくことができます。7〜10日でお届けします。


入色の仕上がりは、言葉だけでは伝わりにくい部分です。実際のサンプルをご確認いただくのが最も確実な方法です。ロゴと枚数、ご希望の仕上がりをお知らせください。24時間以内に無料でご提案します。お問い合わせからご連絡ください。入色のあとの彫刻についてはメダルの名入れ・刻印の方法と注意点で解説しています。

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